どこを訪れても、この人を待ち受けるのは渇望の入り交じる熱狂だった。そうだ、私はこういう音楽が聴きたかったのだ――。
それぞれの苦悩を抱え、日常を懸命に生きるひとりひとりの人の胸へと、フジコさんの「ラ・カンパネラ(鐘)」は祝福の響きを届けた。
そもそも「ラ・カンパネラ」といえば、華麗な超絶技巧の代名詞。パガニーニのバイオリン協奏曲を、リストがピアノ用に編曲したものだ。ロマン派を代表する2人のヴィルトゥオーソ(名人)の技の連携といってよく、コンクールなどで技巧をアピールする時に演奏されるものという印象が強い。
若い人たちがテクニックを誇り、刹那(せつな)的なブラボーを奪い去るために「利用」しがちになるこの曲を、フジコさんは滋味深い人生賛歌にした。「技術だけの音楽なんてないのよ」とでも言うように、音量を誇らず、何げない風情できらきらと温かな高音を放った。
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